副業の売上が伸びてきて、取引先から「インボイス登録してますか?」と聞かれた瞬間、胸の奥がもやもやしますよね。登録すべきか、しなくても回るのか、そして請求書はどう書けばいいのか——この記事では、副業ワーカーの実務に絞って「判断の基準」と「すぐ使える請求書テンプレ」を一気通貫で整理します。年間売上や取引先の属性(法人/個人・プラットフォーム経由)によって最適解は変わります。さらに、2029年までの経過措置や小規模向けの“2割特例”、1万円未満の少額特例、電子保存のポイントまで、実務の“詰みポイント”を回避するコツも具体例で解説。読み終えるころには、登録の要否を自力で判断でき、取引先に即提出できる請求書まで完成している状態を目指します。
副業でインボイス登録は必要?判断フローチャート
まず押さえる前提:免税/課税のラインと「登録」の関係
副業の年間売上(課税売上高)が基準期間(個人は前々年)で1,000万円以下なら原則は免税事業者です。ただし、インボイスの「適格請求書発行事業者」へ登録すると、売上規模に関係なく納税義務が発生します(=課税事業者扱い)。また、前年上半期などの「特定期間」に1,000万円超でも課税事業者になります。ここを誤解すると資金繰りが狂います。
取引先の“本音”で決める:B2BかB2Cか
B2B(相手が課税事業者の会社や代理店)の比率が高いほど、登録のメリット(相手の仕入税額控除に貢献)が重視され、登録必須の契約条件になることも。B2C(一般消費者相手)中心なら、未登録でも販売価格で勝負しやすく、登録コストに見合わないケースもあります。迷ったら主要取引先3社に「登録必須か・推奨か」を確認し、売上比で重み付けしましょう。
2023–2029の“グラデーション”を知る:未登録でも控除の経過措置
買い手側には、未登録の相手からの仕入でも一定割合を控除できる経過措置があります。制度開始から2026年9月30日までは80%、2026年10月1日~2029年9月30日は50%、その後は0%。つまり、2029年10月以降は「未登録=買い手に不利」が決定的になります。副業でも中長期の取引が多い場合、早めの登録が交渉力になります。
小規模者への救済:「2割特例」と「少額特例」
免税からインボイス登録して課税事業者になった小規模者には、負担を抑える“2割特例”が用意されています(2023年10月1日~2026年9月30日開始の課税期間が対象)。原則の消費税計算ではなく、売上に係る消費税額の2割を納付すればOKという簡便法です。また、税込1万円未満の仕入は、インボイス保存がなくても一定の帳簿要件で仕入税額控除できる「少額特例」も併用可能です(要件あり)。
超ざっくり判定フロー(文字版)
- 主要取引先が法人中心で「登録必須・推奨」→ 登録前提で検討
- B2C中心・単発が多い → 未登録寄り。ただし2029年以降の影響は念頭に
- 登録するなら:簡易課税 or 本則課税?2割特例の対象か?(後述)
- 未登録を続けるなら:価格戦略・契約の但し書き・経過措置期日の管理を徹底
登録する/しないの損益比較(リアルな数字で把握)
ケースA:B2B案件が中心・年商120万円・経費20万円
・前提:標準税率10%、外注・備品など経費20万円(うち課税仕入)
【未登録】
請求は税込価格のみ。取引先は2026/9/30までは80%、2029/9/30までは50%控除可能だが、将来的に敬遠される恐れ。あなた側の納税は発生せず。
【登録+2割特例】
売上に係る消費税額=120万円×10%=12万円。支払う税額はその2割=2.4万円。帳簿・届出は必要だが、実効負担は小さく、取引先の控除は満額に。B2B継続なら登録に軍配が上がりやすい。
ケースB:B2C中心・年商60万円・経費10万円
【未登録】
価格に消費税を上乗せせず表示する運用も取りやすく、納税リスクなし。
【登録+2割特例】
売上の消費税相当=6万円、納付=その2割で1.2万円。価格転嫁が難しいB2Cだと、手取りが目減りする可能性。短期の副業やテスト販売なら未登録の合理性が高い。
ケースC:プラットフォーム経由(手数料にインボイス)
EC/スキルマーケットの事業者は多くが登録済みで、手数料に消費税が課されます。あなたが未登録でも手数料側の仕入税額控除は先方の問題。あなたは売上側で納税がない代わりに、仕入控除も使えない点に注意。コンテンツ制作など原価が薄い副業は未登録でも黒字を確保しやすい一方、機材や外注が多いなら登録+簡易課税/本則課税で控除を活かすと利益改善の余地があります。
いますぐできる実務:登録→発番→初回申告まで
登録番号の取得・確認
「適格請求書発行事業者」の登録はe-Tax等から申請。発行された登録番号(頭に“T”+13桁)は、公表サイトで誰でも検索できます。取引先の番号確認にも同サイトが使えます。
請求書に“必ず”入れる6要素
適格請求書には、①発行者の氏名/名称と登録番号、②取引年月日、③品目・役務内容(軽減対象の明示)、④税率ごとに区分した対価の合計額と適用税率、⑤税率ごとの消費税額、⑥相手方の氏名/名称、が必要です。副業の単発請求でも漏れがあると、先方の控除が不可になるので、テンプレで固定化しましょう。
電子帳簿保存法:2024年以降の“最低限”
メール/PDF/クラウドで授受した「電子取引データ」は紙出力保存がNG。電子データのまま、検索性(取引先名・日付・金額等)、改ざん防止(タイムスタンプや訂正削除の履歴等)を満たして保存します。紙の請求書は従来どおり紙保存でも可ですが、電子で受けたものは電子で保存が義務です。
1万円未満の少額特例で“書類迷子”を減らす
課税方式や規模の要件を満たす事業者は、税込1万円未満の経費についてインボイス保存がなくても、所定の帳簿記載で仕入税額控除が可能です(少額特例)。現場ではタクシー代や小口オンライン決済などの取りこぼし防止に効きます。
簡易課税 or 本則課税、それとも“2割特例”?
小規模の王道は「簡易課税」:年商5,000万円以下が目安
簡易課税は、業種別のみなし仕入率(例:サービス業50%、情報制作など多くは第5種)を使って、仕入控除額をざっくり計算する方式。基準期間の課税売上高が5,000万円以下で選択可能です。外注や仕入が少ない業態ほど有利になりやすいのが実務感覚です。
本則課税の出番:仕入・外注が厚い、副業でも原価が重いケース
機材投資や外注費が大きく、実際の仕入税額が“みなし仕入率”より重い場合は本則課税が有利。副業でも映像制作/高額機材レンタル/広告出稿を伴う案件なら本則を検討。みなしと実額の差を試算してから選びましょう。
“2割特例”は登録直後の3年間が勝負
免税から登録した小規模者は、開始~2026/9/30にかかる課税期間で“売上消費税の2割だけ納付”という超シンプル計算を選べます。経理負担を抑えつつ、取引先の控除はフルに満たせるため、B2B主軸の副業で特に相性がいい制度です。経過後は簡易または本則に切り替える前提で、帳簿の取り方を最初から整えておくのがコツ。
インボイス対応の請求書テンプレ(コピペ可)
登録あり・標準(10%のみ・単価ベース)
(宛名)
(件名)請求書
(請求日)YYYY/MM/DD(適格請求書)
(適格請求書発行事業者の名称)〇〇〇〇
(登録番号)T1234567890123
(住所・連絡先)〒…/TEL…/Email…
【取引内容】
・デザイン制作一式(作業日:YYYY/MM/DD) 数量1 単価100,000円 小計100,000円(10%)
──────────────
小計(10%対象) 100,000円
消費税額等(10%) 10,000円
合計請求額(税込) 110,000円
【振込先】〇〇銀行 〇〇支店 普通 1234567 名義:〇〇〇〇
【相手方名】(発注先の氏名/名称)________
※必須6要素(登録番号・日付・内容・税率区分の合計・税額・相手方名)を網羅。
登録あり・軽減税率(8%)が混在する例
(上段は上記と同じ)
【取引内容】
・動画編集(作業日:YYYY/MM/DD)数量1 単価150,000円 小計150,000円(10%)
・新聞広告出稿代行(軽減対象の新聞代に相当する預り分) 小計50,000円(8%)
──────────────
小計(10%対象) 150,000円
消費税額等(10%) 15,000円
小計(8%対象) 50,000円
消費税額等(8%) 3,703円(端数処理:1円未満切上げ/備考で明記)
合計請求額(税込) 218,703円
※軽減対象は内容欄にわかるよう明記。税率ごとの合計と税額を分けて表示。
未登録で発行する請求書の正しい書き方
経過措置期の但し書きでトラブルを避ける
未登録のままB2Bに請求する場合、買い手の仕入税額控除に関する経過措置(一定割合の控除)を理解したうえで、請求書の備考欄に簡潔な但し書きを入れると誤解を防げます。おすすめは次の3点です。
(1)自社が適格請求書発行事業者ではない事実を明示
(2)経過措置の期間中である旨を簡単に記載
(3)買い手の経理判断に委ねる姿勢を示す
例文:「当社は適格請求書発行事業者の登録は行っておりません。経過措置の適用可否につきましては、御社の会計方針にてご判断をお願いいたします。」
税込/税抜を混在させない
未登録でも、価格の内訳や数量はできるだけ明確に。単価・小計は税込で統一し、合計欄は「合計請求額(税込)」と書き切るのが混乱を避けるコツです。途中で税抜金額を挟むと、発注側のシステムで自動計算がずれて差し戻しになりがち。税込統一なら丸め誤差も起きにくく、スムーズです。
個人相手の販売での配慮
B2Cの物販や講座費用など、相手が個人の場合は、インボイス文言よりも「返品・キャンセル規定」「問い合わせ先」「支払期限」「振込手数料の負担区分」を明確に。価格表示は“消費税込みの総額”を太字で目立たせ、支払い手段を2種類以上(振込+QR決済など)にすると回収率が上がります。
見積書・請求書・納品書・領収書を「ひと繋ぎ」に
見積書テンプレ(インボイス準拠・登録あり想定)
(件名)見積書
(発行日)YYYY/MM/DD
(宛名)________ 様
(見積有効期限)YYYY/MM/DD
(見積番号)Q-YYYYMM-001
(適格請求書発行事業者の名称)〇〇〇〇
(登録番号)T1234567890123
(住所・連絡先)〒…/TEL…/Email…
【見積内訳】
・○○デザイン制作一式 数量1 単価100,000円 小計100,000円(10%)
──────────────
小計(10%対象)100,000円
消費税額等(10%)10,000円
見積金額合計(税込)110,000円
※納期、仕様、検収条件、支払サイト(例:月末締め翌月末)を必ず記載。
納品書テンプレ(任意だが有効)
(件名)納品書/検収依頼
(発行日)YYYY/MM/DD
(宛名)________ 様
(案件名)○○デザイン制作
(登録番号)T1234567890123
【納品内容】
・成果物:ロゴデータ(AI/PNG)、ブランドガイド(PDF)
・納品方法:メール添付/クラウド共有リンク
・作業日:YYYY/MM/DD
※検収完了日を返答いただいた日とし、請求日は検収完了日の翌営業日とします。
領収書テンプレ(登録あり・なし両対応)
(件名)領収書
(発行日)YYYY/MM/DD
(宛名)________ 様
(金額)110,000円(うち消費税額等 10,000円)
(但し書き)○○デザイン制作代として
(発行者)〇〇〇〇/登録番号 T1234567890123(未登録の場合は空欄または「—」)
(受領方法)銀行振込(入金日:YYYY/MM/DD)
※紙で発行する場合は社判を押し、電子発行はPDFに発行者情報を入れて改ざん防止(後述)。収入印紙は課税文書に該当する場合のみ検討。銀行振込の受取書としての領収書は、取引実態に合わせて運用します。
受け取る側のチェックリスト(副業でも仕入控除を取り切る)
形式要件のミスあるある
- 登録番号の欠落(登録ありのはずが空欄)
- 税率ごとの合計額が未区分(10%と8%が混在)
- 取引日が納品日と請求日のどちらか不明(両方入れると安心)
- 相手方名称の表記ゆれ(略称・旧社名)
- 桁区切りと端数処理が合わず合計が一致しない
- 小口経費のレシートだけを保存(帳簿要件が満たせていない)
- 電子データを印刷保管してしまう(電子保存の義務違反)
- 立替・預り金の税区分が混在(対象外は別欄に)
- 軽減税率の明示抜け
- 請求書番号の管理不備(照合に時間がかかる)
上のどれか1つでも当てはまると、仕入税額控除が否認されるリスクや締め処理の遅延が生じます。受領後48時間以内にチェック→差戻し依頼、を習慣化しましょう。
端数処理の実務:単位を固定し、全書類で一貫
消費税の端数処理は、(A)行単位、(B)区分小計単位、(C)請求書合計単位、のいずれで行うかを先に決めて固定します。副業者にとっては、(B)税率区分ごとの小計単位で四捨五入が扱いやすく、数量×単価の再計算とも整合しやすいです。
例:10%対象小計 150,000円 → 税額 15,000円、8%対象小計 50,000円 → 税額 4,000円(四捨五入)。発注側と取り決めを交わし、備考に「端数処理は税率区分小計単位で四捨五入」と明記すると差異を防げます。
税率と課税区分の分け方
役務提供や制作費用などは10%、飲食料品等の軽減対象は8%、預り金(広告出稿費を代理で立替など)は「対象外」。対象外は本体欄に混ぜず、別の区画「預り・立替」で合計し、消費税計算に含めないのが鉄則です。
電子保存のベストプラクティス
フォルダ設計で検索性を担保
電子保存は「検索できること」が最重要です。フォルダとファイル名の両方で、日付・取引先・金額の要素が拾えるように設計します。
推奨ツリー:
/会計/2025/請求-売上/2025-08/AAA社/
/会計/2025/請求-仕入/2025-08/ツールB/
同階層に「見積」「納品」「請求」「領収」「契約」を分けるか、ファイル名で判別できるよう統一します。
ファイル命名規則の例
【売上用】YYYYMMDD_請求_No001_AAA社_110000税込_T1234567890123.pdf
【仕入用】YYYYMMDD_受領_ツールB_月額3300税込_10%_請求No998.pdf
検索でヒットしやすいキー(年月日・相手名・金額・税率・請求番号)を前半に置くと効果的。姓と社名の揺れ(株式会社/(株)など)は自分側で統一語に置換しましょう。
メール・チャットアプリ経由の証憑
メール添付やチャットのファイルは、送信日時・送信者が分かる画面キャプチャをPDFに添付して保存すると、授受の事実が残せます。ダウンロードしたPDFの原本と、やり取りのスクリーンショットを同じフォルダに置き、同じ請求番号を含むファイル名にすると照合が速くなります。
改ざん防止とバックアップ
クラウドストレージの「バージョン履歴」やチームドライブのアクセス権限で、訂正削除の履歴を残せます。PDF自体にパスワードを掛けるより、フォルダ権限を最小限にする方が運用負荷が低いです。バックアップは月1回、別クラウドまたは外付けSSDへミラー。退職・機種変更に備え、アカウントに依存しない共有フォルダで管理しましょう。
10分でできる方式選択の試算
2割特例/簡易課税/本則の使い分け早見
- 直近1年の売上(税込)×10%=理論上の売上消費税
- 2割特例:上記の20%が納付額(対象期間内のみ)
- 簡易課税:売上(税込)×10%×(1−みなし仕入率)
・例:サービス業(第5種)のみなし仕入率50% ⇒ 売上×10%×50% - 本則課税:実際の課税仕入にかかる消費税を集計→売上消費税から差し引き
「仕入(外注や備品)に消費税がほとんど乗っていない」なら簡易課税や2割特例が有利になりやすく、「仕入が多い・高額投資がある」なら本則が強い、というのが定石です。
サンプル数字で比較(年商240万円、課税仕入60万円)
・売上消費税:240万×10%=24万円
・2割特例:納付 24万×20%=4.8万円
・簡易課税(第5種50%想定):納付 24万×50%=12万円
・本則課税:仕入に含まれる消費税 60万×10%=6万円 ⇒ 納付 24万−6万=18万円
この条件なら2割特例が圧勝。ただし対象期間外や、仕入が120万円に増えた場合は本則の方が逆転することがあります。数字を毎年更新して見直しましょう。
年の途中で登録・開業したとき
登録日をまたいで案件が継続する場合、検収・役務提供日で区分します。登録前の提供分は未登録として処理、登録後の分は適格請求書で発行。見積段階で「検収基準」「日割り区分」を明記し、請求書を2枚に分ける運用が安全です。
未登録の請求書テンプレ(経過措置の但し書き込)
未登録・B2B向け(但し書き付)
(宛名)
(件名)請求書
(請求日)YYYY/MM/DD
(名称)〇〇〇〇(適格請求書発行事業者登録なし)
(住所・連絡先)〒…/TEL…/Email…
【取引内容】
・○○制作一式(作業日:YYYY/MM/DD)数量1 単価110,000円(税込) 小計110,000円
──────────────
合計請求額(税込)110,000円
【備考】
・当社は適格請求書発行事業者の登録を行っておりません。
・経過措置の適用可否は御社会計方針にてご判断願います。
・振込手数料は貴社ご負担にてお願いいたします。
【振込先】〇〇銀行 〇〇支店 普通 1234567 名義:〇〇〇〇
未登録・B2C向け(シンプル表示)
(宛名)________ 様
(件名)請求書
(請求日)YYYY/MM/DD
(名称)〇〇〇〇
【内容】
・○○講座受講料 数量1 単価8,800円(税込) 小計8,800円
──────────────
合計(税込)8,800円
【支払方法】銀行振込/QR決済(手数料別途)
【キャンセル規定】前日まで50%、当日100%
見積書・領収書の追加テンプレ
見積書(未登録者・B2C想定)
(件名)見積書
(発行日)YYYY/MM/DD
(宛名)________ 様
【見積内容】○○講座受講料 8,800円(税込)
【注意】価格は総額表示、税額内訳の記載はありません。
領収書(未登録者)
(件名)領収書
(発行日)YYYY/MM/DD
(宛名)________ 様
(金額)8,800円
(但し書き)○○講座受講料として
(発行者)〇〇〇〇(登録なし)
受領後のワークフローを固定化する
3ステップで締め処理
- 受領当日:請求書番号と金額を台帳に転記、フォルダに保存
- 48時間以内:登録番号・税率区分・端数処理をチェックし、差戻しがあれば依頼
- 月末:支払予定表を更新し、支払依頼メールを自動化(テンプレ作成)
差戻しメールの定型文
件名:請求書ご再発行のお願い(No.)
本文:
「平素よりお世話になっております。貴社ご発行の請求書(No.)につき、登録番号の記載が見当たらなかったため、再発行をお願いできますでしょうか。税率区分ごとの小計・税額の明記も併せてご確認いただけますと幸いです。」
現場で効くミニ・ライフハック
事前に「請求書ガイド」を1枚渡す
新規の取引先には、自社が期待する記載要件をA4一枚で共有しておくと差戻しが激減します。PDFにして見積依頼メールに添付しておきましょう。
請求締め日と検収日のルールを固定
「毎月25日検収・当月末請求・翌月末支払」など、双方が同じ言葉で理解できるよう、提案ベースで先に提示すると主導権が握れます。副業でもプロ感が伝わり、交渉がスムーズです。
金額の誤入力を自動検出
台帳(スプレッドシート)に「小計×税率=税額」「税率別小計の合計=請求書合計」をチェックする式を入れておくと、差異がある行だけ赤色ハイライトに。見落としが減ります。
10分試算のための台帳設計
必要な列(売上シート)
・日付/請求No./取引先/内容/税率(10 or 8)/税率別小計/税額/総額/入金予定日/入金日/登録区分(登録・未登録)
ピボットで「月次の税率別売上」「入金遅延一覧」を一発で出せる構造にしておくと管理が簡単です。
必要な列(経費シート)
・日付/請求No./仕入先/内容/課税区分(10・8・対象外)/税額/総額/支払日/証憑種別(PDF・レシート・スクショ)/保存場所リンク
課税区分の統一語(例:「対象外」「非課税」「不課税」)は辞書を作って迷わないように。
年度末の集計
売上消費税(10%・8%)と仕入消費税(10%・8%)を分けて合計し、
・2割特例:売上消費税×20%
・簡易課税:売上消費税×(1−みなし仕入率)
・本則課税:売上消費税−仕入消費税
の3本を同じ表に並べて比較。差額が2万円以上開くなら、来期の方式見直し候補です。
インボイスの「交渉」術
単価の中で税負担を吸収するか、別立てにするか
登録直後は単価改定が難しいことがあります。B2Bでは「インボイス対応に伴う価格見直し(+○%)」を四半期の改定日に合わせて提案。B2Cでは総額据え置き・納付分を内部で吸収し、代わりに納期や修正回数の条件を調整するのも選択肢です。
取引先の立場に寄り添う文言
「御社の仕入税額控除が満額適用となるよう、当方も登録を完了しております」「経過措置期間中は、御社の会計方針に沿って書式を合わせます」など、相手の経理負担が減る表現を入れると、信頼と継続率が上がります。
ケースで学ぶ端数と区分の落とし穴
例1:広告代理の預り金を混ぜて計算してしまった
広告媒体費(預り金)5万円と制作費15万円を合算し、10%で税計算→税額2万円と記載。正しくは、預り金は対象外なので、課税対象は15万円のみ→税額1万5千円。請求書は「制作費」欄と「預り金」欄を分ければ解決します。
例2:軽減8%の新聞代を含む案件
動画編集15万円(10%)+新聞出稿代5万円(8%)の混在は、税率別に小計を分け、税額も別計上。端数は税率別小計単位で四捨五入に固定。合計欄で再集計すると整合性が取れます。
まとめ
副業のインボイス実務は、「誰に売るのか(B2BかB2Cか)」「いつ登録するのか」「どの課税方式を選ぶのか」の三点で9割が決まります。未登録で走るなら但し書きと総額表示で誤解を避け、登録するなら“2割特例→簡易/本則”へとスムーズに移行できる台帳を今日から整えましょう。請求・見積・領収のテンプレを一本化し、端数処理と税率区分を固定すれば、差戻しは確実に減ります。電子保存は「検索できるか」を合言葉に、フォルダ設計と命名規則を先に決めるのがコツです。まずは主要取引先3社を並べ、方式別の納付額を10分で試算。あなたの手元に返ってくる時間とお金が、じわっと増えていくはずです。